メヌエット ~絵里加
朝のざわめく教室。授業前のひと時。
同じタイミングで、健吾の回りも賑やかだった。
きっと絵里加のことを、話している。
「ケンケン、良い奴だね。絵里加、よかったね。」陽子が言う。
「二人、お似合いだよね。ケンケン、カッコよくなったし。」ひとみも重ねる。
「今日は絵里加、さらに可愛いよ。」
亜弥が言って、三人はまた “あーあ” とため息をつく。
絵里加は、幸せに頬を染めて俯く。
「一緒に授業、受けなくてもいいの?」ひとみに言われて、
「学校では、今まで通りで、って決めたから。」絵里加が言う。
「へえ。ケンケンって、意外とちゃんとしているね。」ひとみの言葉に、
「そうだね。昔は、ただのお調子者だったけど。」陽子も言う。
「うん。背も低かったし。」亜弥も頷く。
確かに、小学生の健吾は ひょうきんなお調子者だった。
だから、電車で話したとき 絵里加も驚いた。
大人の男になった健吾に。
「ちょっと。ひどくない。」絵里加は抗議する。
三人の言葉は、辛辣だけど温かいから。
「ごめん、ごめん。絵里加の王子様なのにね。」
ひとみが、プッと膨れた絵里加の肩を叩く。
明るい笑い声の後、
「案外、近くにいるのかもね、王子様は。」
亜弥がぽつんと言い、みんなは神妙に頷く。