メヌエット ~絵里加
一年生の3学期、絵里加が告白されている現場に 健吾は偶然遭遇した。
昇降口の隅。相手はサッカー部のちょっと目立った男子。
「俺、入学した時からずっと、絵里加ちゃんが好きです。付き合ってください。」
絵里加は、困ったように俯く。そして、
「ごめんなさい。絵里加、まだ特定の人とお付き合いするとか、考えられないの。」
と言う。はっきりと。
「それじゃ、お友達として付き合って。」
相手は絵里加の言葉に、それでも食い下がる。
「今以上は、ちょっと。1対1とかは、本当に苦手なの。ごめんなさい。」
絵里加も、安易な返事をしない。
「それなら、携帯番号教えてくれる?LINEくらいは、してもいいでしょう。」
「絵里加の電話、キッズ携帯だから。LINEできないの。ごめんなさい。」
下駄箱の影で、二人のやりとりを聞いていた健吾は 胸を撫でおろす。
絵里加がちゃんと断っていたことに、安心して。
「そうか。じゃあ、絵里加ちゃんがその気になったら、いつでも言って。俺、待っているから。」
そう言って、相手の男子が離れていく。
絵里加の ホッと溜息をつく声が 健吾まで聞こえた。
健吾は絵里加の携帯番号も、LINEのIDも知っている。
小学校の卒業前にスマホに変えて、健吾にも教えてくれた。
そんな小さなことが、健吾を喜ばせる。
そして、絵里加はまだ 恋愛を望んでいないことを知る。
きっと絵里加は、今回が初めてじゃない。
今までに何度も 告白されては断っているのだろう。
そんな風に 絵里加に負担をかける相手を 健吾は無神経だと思った。
いつか 絵里加が恋を望むまで 自分はゆっくり待つことを決意する。密かに。
それくらい、絵里加のことが好きだったから。