メヌエット ~絵里加
3限目で授業が終わり、健吾と二人で帰る絵里加。
連休の隙間の平日、いつもより混み合う電車の中。
健吾は絵里加の肩を抱き、人混みから守る。
「みんなに、よかったねって言われたの。」
上目使いに健吾を見つめて、絵里加は言う。
「俺は、ずるいって言われたよ。」
健吾は笑う。優しい目で。
「ずるくないよ。ケンケンが、いいんだもん。」
絵里加が言うと、電車の揺れに便乗して健吾は絵里加を抱き寄せる。
「絵里加は、大学のマドンナだからね。」
「大げさ。絵里加はママに、甘えてばかりじゃだめよって言われたよ。」
小さな声で、ヒソヒソと話す。
「いいの。絵里加が甘えるのが、嬉しいから。もっと甘えてほしいよ。」
健吾は、耳元で囁く。
絵里加も電車の揺れに合せて、健吾の腰の辺りに手を廻す。
「満員電車もいいね。」
絵里加の心を、見透かすように健吾は微笑む。
「うん。最高。」可愛く見上げる絵里加。
健吾は もう一度 肩を抱き寄せた。
一歩ずつ自然に、絵里加の心に入ってくる。