メヌエット ~絵里加
健吾と二人、ショッピングモールを歩いたり。
池のある公園で ボートに乗ったり。
カフェのテラスでコーヒーを飲んだり。
連休の人混みさえも、絵里加は楽しかった。
健吾の背中を見て、自転車を漕ぐ。
温かな幸せで、絵里加は胸がいっぱいになる。
「絵里加、大丈夫。」
登り坂では 健吾が振り向いて、声を掛けてくれる。
「ケンケン。待ってー。」
腰を浮かせてペダルを漕ぐ絵里加を、健吾は笑いながら見つめる。
木陰に自転車を停めて、健吾は絵里加を抱きしめた。
優しく頭を撫でられて、絵里加は健吾の胸に寄り添う。
久しぶりの抱擁は温かくて。
絵里加は胸が熱くなる。
父や母に、肩を抱かれた時よりも 甘いぬくもり。
まだその先を知らない絵里加を、健吾が優しく包みこむ。
「ケンケン。絵里加、幸せ。」
健吾の胸で、そっと呟く絵里加。
愛しさが込み上げて、健吾は 絵里加の髪に 顔を寄せる。
「絵里加。可愛いよ。大好き。」
そう言ってしばらく抱いていた。