メヌエット ~絵里加
「ママね、パパと結婚する時に 悩んだって言ったでしょう。絵里ちゃんが 普通のおうちの子だったら、ケンケンとのお付き合いを悩んだかもしれないわね。」
母の言いたいことが絵里加にも、少しずつ見えてきた。
「ケンケンの家も、特別だから?」母は静かに頷く。
「特別な生活って、努力すれば手に入るものでもなくて。そういう家に生まれるとか、選ばれた人だけができるものだから。」
母は言葉を切って、一息つくと
「絵里ちゃんは、選ばれた特別な子なの。それは お祖父様達が ママを認めてくれたから。だからママは、自分の子供達に特別な生活を与えることができたの。ママは、お祖父様達にとても感謝しているわ。」
母はいつもお祖父様達と仲良くしている。
本当の親のように、優しく労わって。
「絵里ちゃんが ケンケンと付き合って ケンケンを大切に思うなら ケンケンの家族も大切にしてね。」
健吾は気軽に 絵里加の家に来て 絵里加の家族と仲良くしてくれる。
母は、それを当たり前に思ってはいけないと絵里加に教えていた。
「ママ、絵里加はまだまだだね。ケンケンがパパやママと仲良くしていることが、嬉しくて。それでいいと思っていた。でも絵里加がケンケンの家族と仲良くすれば、ケンケンも嬉しいんだよね。」
絵里加は笑顔で言う。
まだ結婚する訳でもないのに。
そこまで話す必要はないかもしれない。
でも、思いやりは交差するから。
相手を考えることは、必ず絵里加の為になるから。
「パパもママも 絵里ちゃん達のことは 一生懸命育てたから。絵里ちゃんは、みんなに自慢できる良い子に育ってくれて。どんな特別なおうちに行っても、恥ずかしくない子だから。」
母の言葉に、絵里加はまた涙汲む。
「恋をして、今まで知らなかった思いを たくさん経験して 絵里ちゃんの心が 豊かになっていくことが、ママは嬉しいの。」
「ママ。」絵里加の目から、涙が流れる。
「また泣く。」と母は笑う。
恋する絵里加を咎めたり 疑ったりしない。
一番近くで見ていて、その時々に必要なアドバイスをしてくれる。
だから母を頼ってしまう。甘えてしまう。
ティシューで涙を押さえた絵里加は、
「絵里加、全然だめ。自分しか見えなくて。自分のことで、いっぱいで。いつかママみたいになれるかな。」そっと言う。
「そうね。いつか絵里ちゃんもママになればね。大丈夫。いやでも強くなるわ。」と母は笑う。
絵里加は、いつママになれるのだろう。
その時、隣にいてくれる人が 健吾ならいい。
そう思いながらそっと俯く。