メヌエット ~絵里加

絵里加は朝、いつもよりおしゃれをして家を出た。
 
「今日は、ケンケンと夕食を食べるから。帰りが遅くなるけれど、心配しないでね。」

そう言う絵里加を、母は優しく見送った。
 

渋谷駅で 絵里加を待つ健吾も、ポロシャツに麻のジャケットを羽織っている。
 

「絵里加、可愛い。ピンクの花みたい。」

薄いピンクのワンピースが、絵里加を甘く輝かせる。少し照れながら、
 
「ありがとう。」と微笑む。
 

「まず、20才、おめでとう。」と、言う健吾。

朝の雑踏の中。でも、絵里加の胸は熱くなり 少し健吾に寄り添う。
 
「ありがとう。ケンケンより先に、大人になっちゃうね。」と笑う。


バレエの公演後、健吾と絵里加は 許嫁のような関係になっていた。

両方の親がとても安心して、温かく見守ってくれる。

二人は親の期待に応えるように、節度のある交際をしていた。

まるで両親達の策略に、乗せられたように。
 

「今日の絵里加、可愛すぎるから みんなが見ているよ。」

健吾に腕をからめて歩く絵里加は、すれ違う人が振り返るくらい美しい。
 
「やだ。絵里加、何か付いている?」

絵里加が持っている、特別なオーラ。

かつては、健吾を悩ませた。

そのキラキラ輝く笑顔を、今は健吾だけに向けている。
 


「クリーニングのタグが。」健吾が言う。
 
「えっ。嘘、どこ?」絵里加は、慌てて首の後ろを触る。
 
「嘘。何も付いていないよ。」

健吾は、フッと笑って絵里加を抱き寄せる。
 
「もう。ケンケン!」

頬を膨らませて、健吾を見上げる顔は可愛くて。


絵里加の髪を優しく撫でてしまう。
 


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