悪役令嬢は二度目の人生で返り咲く~破滅エンドを回避して、恋も帝位もいただきます~
 レオンティーナを挟んで、ヴィルヘルムとルイーザが言葉を交わしているのも耳に入ってこなかった。

(お父様、寝室で大丈夫かしら……)

 寝室に入った父は、ちゃんと母の付き添いができているだろうか。レオンティーナは入室を許されていないから、居間で気をもむことしかできなかった。
 どのくらいの時が過ぎたのかわからない。
 母が寝室に入ったのは、朝だったのに、もう日は完全に暮れてしまっている。

「――待って。何か聞こえないか?」

 ヴィルヘルムが顔を上げて、耳をすませるそぶりをした。

「ほら、泣き声みたいな」

 ヴィルヘルムに合わせるようにして、レオンティーナも顔を上げ、耳をすませる。けれど、レオンティーナの耳には何も聞こえなかった。

「ソニア。温かいお茶を持ってきてくれないか」

  部屋の隅で、所在なさそうに立ち尽くしているソニアにヴィルヘルムが命じる。返事と共にともに身をひるがえしたソニアは、ばたばたと居間を出て行った。
 ほどなくして戻ってきた時には、ティーセットを載せたワゴンを押している。
 それだけではなく、一口サイズのクッキーが何種類か盛り合わされていた。

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