悪役令嬢は二度目の人生で返り咲く~破滅エンドを回避して、恋も帝位もいただきます~
 口の中でさくりと溶け、口内にココアの香りと甘みが広がる。口に入れたものを出すわけにもいかないから、もぐもぐと咀嚼して呑み込んだ。

「……おいしい」

 まだ、お産が終わったと誰も知らせに来ていないのに、こんなにも落ち着いていられるのはなぜだろう。

(ヴィルヘルム様と、ルイーザ様が側にいてくれるから……?)

 ヴィルヘルムとルイーザとは親しい友人だ。それだけのはずだった。
 それなのに、こうしてふたりが側にいてくれると、こんなにも落ち着くものなのか。

(こんなの、前世では知らなかった……)

 両手でカップを包み込むようにし、しみじみと思う。
 前世では”友人”と名乗る人はいたけれど、あくまでも社交上の付き合いに過ぎなかった。レオンティーナに利用価値がなくなったとたん、皆、離れていった。
 けれど、ヴィルヘルムとルイーザがこうして隣にいてくれると、とても胸が温かくなる。
 先日、ヴィルヘルムと話をしたことを思い出した。

(空腹はさみしい、と……今は、まったく反対の状況のように思えるわ)

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