悪役令嬢は二度目の人生で返り咲く~破滅エンドを回避して、恋も帝位もいただきます~
 ヴィルヘルムとルイーザがいてくれなかったら、母が出産している間、こんなに落ち着いていられたかどうか。
 ヴィルヘルムも自分のカップに手を伸ばし、運ばれてきたカップが空になった頃、居間の扉が開かれた。

「――お父様!」

 背後に女性を連れ、入ってきた父の顔には、疲労の色が浮かんでいる。

「――見てごらん、弟だよ」
「弟!」

 生まれるまでどちらかわからなかったけれど、弟が生まれたのだ。乳母は、レオンティーナの方に身体を向けた。
 彼女の腕の中には、生まれたばかりの赤ちゃんがいる。両手をふわっと握りしめ、目は開いているのか閉じているのかよくわからない。

「うわあ、可愛いなあ……ユリウスが生まれた時みたいだ」
「お猿さんみたいに見えるわ。お兄様には、これが可愛らしく見えるの?」

 覗き込んだヴィルヘルムとルイーザも、乳母の抱いている赤子から目が離せないようだが反応は正反対だった。
 近づけないでいたのは、レオンティーナだけだった。ヴィルヘルムとルイーザの後ろから、ただ、見ているしかできない。

(……私の弟)

 前世でも、弟はいた。
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