さよならが言えなくなるその前に


古びたビルの屋上。




通りからは、スパイスの匂いと




何語かわからない威勢のいい会話が 




風にのって上がってくる。




ここはブラアイが持っている




隠れ家の1つだ。




屋上のドアが開いて



那智が入ってきた。




翔輝が振り返る。




今日はブラアイで幹部会のあと




英次さん。




青龍会に話を通しにいくから





2人ともスーツを着ている




おそらく




幹部会が集まるのも




おれらが自由に出回るのは




今日が最後になるだろう。




特に翔輝は




完全に、身を隠す生活になる。


「翔輝」



那智が言いかける




「なに?」



お前、ほんとうにこれで良かったのか




そう言おうと思った。



けれど



翔輝がくちびるの端を少し上げて



言った。




「…おれのために



全部捨てろって?」




…言えねえか。




「行くぞ」



翔輝が言った。



そうだよな。



俺たちにはこの道しかない。



那智と翔輝は屋上のドアを後にした。



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