となりの一条三兄弟!
「昔はさ、狼と人間の境目なんて分からなかった。ガキだったし遊びに夢中になると尻尾が生えたり髪が銀色になったりしてた」
「………」
「思い通りにいかなくてモノを壊したり、間違って母さんを傷つけたりもした。俺は兄貴や晶よりずっと不安定だったから狼でいた時のほうが多かったかもしれない」
聖が教えてくれる過去のひとつ、ひとつ。私は小さなことでも溢さないように必死で耳を傾けた。
「それでも母さんは俺を叱ることはなかった。近所でヘンな目で見られても化け物を飼ってると町で噂になっても俺のせいにしない」
「………」
「隠して生きていかなきゃいけないなんて窮屈でごめんねって、いつも俺に謝ってた。そのせいで引っ越しも何度もして家族には迷惑かけてたと思う」
聖が少し間を空ける。どうしようか迷って、でも覚悟を決めたような顔をしてた。
「人前で狼になっちゃいけないんだと気づきはじめていた7歳の時。引っ越した先で会った友達にホームパーティーをするから来ないかって誘われてたんだ。俺は母さんを連れて参加することになったけど、たくさんの同級生がいる前で俺は狼になった」
「……え?」
「遊びたいオモチャの取り合いで喧嘩になった。それで頭に血がのぼって……」
聖の手に力が入ったのを私は見逃さない。
「そのあとの周りの反応なら大体想像はつくだろう?みんな唖然として徐々に目の前の現実に青ざめて……。警察を呼ぶってすげー大騒ぎになった」
「………」
「さっきまでみんな『今度はうちにおいでよ』とか『引っ越してきたばかりでもこの町はみんな家族みたいなものだから』って言っていた人たちが俺を化け物みたいな目付きで見るんだ」