となりの一条三兄弟!
たしかに人が突然狼になったら冷静ではいられないと思う。
親は子どもを守ろうと必死になって、遊んでいた友達は恐怖でその後ろへと隠れる。
その鋭い眼差しの中心に聖はいて、その時どんな気持ちだったかなんて、私には計り知れない。
「怖くて逃げ出したくなって、俺はその姿のまま家を飛び出した。走っても走っても視線に追いかけられてるみたいで逃げ場がなかった。それで俺はいつの間にか国道に出ていて目の前にトラックが……」
聖の言葉がまるで頭の中で映像化されていくような感覚がしていた。
キキィというトラックのブレーキ音。聖の前に大きなトラックが迫りくる。
――『聖っ!』
背後で聞こえる母の声。そして……。
「母さんは俺を庇ってトラックに跳ねられた。俺は背中を押されて歩道に突き飛ばされて無傷だったけど、母さんの体からは大量の血が流れていた」
聖の瞳が震えていた。
きっと思い出すことも、話すことも怖かったのだろうと思う。
「倒れる母さんを見て俺はいつの間にか人間に戻ってた。そして冷たくなっていく母さんの手を握りながら何度も何度も謝って……」
「………」
「それでも母さんは『大丈夫だから』って笑ってた。いつか俺のことを理解してくれる人が現れるって。狼でも人間でも聖は聖だってこと忘れちゃダメだって。そう言ってくれる人が必ず見つかるからって……っ」
聖が言葉に詰まりながらもまだ涙を流さないから、私も泣くわけにはいかないと思った。