となりの一条三兄弟!
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「おい、ちょっと来い」
放課後。帰り支度をしている私に近づく黒い影。顔を上げると机の前に聖が立っていた。
「え、え、なに?」
教室で話しかけてくるなんて珍しい……。
「いいから」
内容も言わずに一方的な誘い方だったけど、私は彼に付いていった。
教室にクラスメイトたちはほとんど残ってなかったけど、廊下にはさすがにまだいる。
今朝みたいに注目されないように距離を置いて歩いてるけど、そんな心配はいらないぐらいに聖の歩くスピードは速かった。
「ちょっと、どこ行くの……っ?」
見失わないように追いかけていくのに必死で、周りの目なんて気にしていられなかった。
息が上がってきた頃、ようやく聖は足を止めてくれた。
たどり着いたのは、人気のない校舎裏だった。
昔は園芸部がここに花を植えてたらしいけれど、今は草が膝ぐらいの高さまで生えている。
「ん」
聖はぶっきらぼうに声を出した。
「え、な、なに?」
「ちょっとあそこ見てきて」
聖が指さしているのは、今は使われていない古びた百葉箱がある辺りだ。
周りはもちろん草が延び放題だし、一度足を踏み入れたら虫かなにかにチクリと刺されそうだと思った。
「む、無理!」
おばけもの次に苦手なものを挙げるなら虫だ。とくにこういう草むらにいる虫は警戒しても体に付いていたりするから、なおのこと近づけない。
私が首を横に振ってごねていると、聖は露骨に眉を寄せていた。
言葉にしなくても、その表情で言いたいことは分かる。
あーはいはい。これは、四の五の言わずにさっさと行けということですね。
本当になんでこの三兄弟はこんなに強引なのかな。それも人間じゃない力が宿ってるせい?
涙目になりながらも、私は草の中へと入った。