悪魔と魔女
複雑な事情
 美しい森に囲まれた青い湖がある。季節ごとに移り変わる緑林の色彩もさることながら、湖畔に色とりどり咲き乱れる草花の美しさはたとえようもないほどすばらしいものだった。晴れの日の昼間にはたゆたう白い雲と抜けるように青い空を写し取り、夜ともなれば白い月と闇夜に散らばる星粒を波のない水鏡にそっくりそのまま受け止めるのだ。

 その湖畔には小さな家が一つだけ建っている。町からも遠く、細い獣道のような街道をずっと歩いて森を抜けなければたどり着けない家だが、そこに人は住んでいた。しかし、ただの人間ではない。魔女である。

 魔女自体は珍しいものではない。

 探せば一つの町に十人程度はいるだろうから。

 しかし、この湖畔に住まう魔女は少々珍しい魔女だった。

 何が珍しいかというとその人物がまだ若く、一人前になったばかりだということだろう。いや、若いということは大して問題ではない。重要なのは魔女がまだ一人前になったばかりなのにもかかわらず、このような辺鄙な場所に住居を構えているということだ。
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