エリート御曹司が花嫁にご指名です
「汐里が倒れた」
『ええっ!? それで!? こっちへ向かっているんですね?』
「そうだ。急に意識を失った。熱がある。ああ。あと五分で着く」

 俺が話しているうちに汐里が気づいた。通話を切り、汐里へ視線をやる。

「専務、すみません」
「気がついたか。そのまま横になっているんだ」

 ステアリングから片方の手を離して、倒したシートを戻そうとする彼女へ手を伸ばす。

「突然、気を失ったりして申し訳ありませんでした。もう大丈夫ですから」
「いいから寝ていろ」

 身体を起こそうとする汐里に、断固とした声色で指示をした。大儀なのだろう。彼女は素直に聞き、そのまま横になることを選んだ。

「壮二に連絡した」
「はい……」

 汐里はそっと腕時計で時間を確かめていた。会議が気になっている様子だ。


 車を病院の車寄せに停め、ドアロックが解除された瞬時、外側から開けられた。

「しおりん!」

 心配そうな顔の白衣姿の壮二が、頭を車に入れて、妹の額から頬、手首に触れる。

「壮兄は整形外科医でしょ。尊兄さんに」
 
 内科医は一番上の兄だ。シスコンの兄に、汐里は顔を顰めている。
 
 そんなことには構わずに、壮二は汐里の脇と膝の裏に腕を差し入れようとした。

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