エリート御曹司が花嫁にご指名です
「ちょ、ちょっと待って。医者なんだから、抱き上げないで。患者さんの目に触れるわ。歩けるから」
「気を失った割には元気だな」

 すったもんだしている壮二の背後に俺は立ち、おもむろに口を開いた。

「壮二、どけ。俺が連れていく」
「そ、それもダメです」

 汐里はプルプルと首を横に振るが、俺は素直にどいた壮二の代わりに彼女を抱き上げた。

「専務、下ろしてください」

 彼女は恥ずかしそうに目を伏せる。

「言っておくが、社で何人もの目にこの状態を晒されていたからな。恥ずかしければ俺の肩に顔をうずめているんだ」

 そう言うと、汐里は素直に俺の肩に顔をうずめた。羞恥心で彼女の鼓動がドクンドクンと鳴っていた。

 壮二の案内で、処置室へ入り、ベッドの上に彼女を静かに下ろす。

「ありがとうございます。専務、会議の時間が」

 具合が悪いのに、秘書の顔を見せる汐里に、俺は落ち着かなくなる。

 やはり汐里には辞めてほしくない。

 俺はスーツのジャケットの袖を少しずらして、がっしりした腕時計へ視線を落とす。

 九時三十分だった。これから戻っても十時の会議には間に合うだろう。

 仕事に忠実な秘書は、早く行ってほしいような視線を向けてくる。

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