エリート御曹司が花嫁にご指名です
「コーヒーをどうぞ」

 執務デスクにアイスコーヒーを置こうとする汐里の手を、俺はプラカップごと掴んだ。

 わざとだった。手に触れた途端、汐里が肩をピクッと跳ねさせるのを見逃さなかった。

 俺のしていることはセクハラか?

「ありがとう」

 俺は受け取ったプラカップに口をつけて、アイスコーヒーを飲む。

「うまい。やはり汐里の淹れるコーヒーがいい」

 ほとんど褒めることをしない俺に、汐里はやんわり笑みを浮かべた。

 彼女は丁寧にお辞儀をして、自分のデスクへ着席し、仕事を始めた。

「病み上がりだ。無理せずやってくれ」

 次から次へと仕事を置いたのは、まずかったか。彼女はデスクの上が綺麗になるまで、時間を惜しんでやるだろう。

 書類から顔を上げた汐里と目が合い、彼女は「ありがとうございます」と口にして、ぎこちなく目を泳がせる。

 昨日倒れたのが気まずいのだろうか。

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