エリート御曹司が花嫁にご指名です
「俺は嫌味や嫌がらせで、見合いの場所に乗り込んだわけじゃない。あの男に君が取られるのを阻止するためだ」
「ですから、意味がわかりません。阻止するために『俺の花嫁』だなんて、適当なことを言って。どうしてくれるんです? もう白石さんは会ってくれないでしょう」
「当たり前だ。あんな男がいいのか? 見合い相手を探す必要はない」

 汐里があの男といて、俺は今までにない焦る気持ちに駆られた。

 彼女は興奮した様子で、あの黒ぶち眼鏡をかばう。

「子供が欲しいんだろう? 俺と結婚すればいい」

 案の定、汐里は心底驚いた様子で、目を見開かせた。

「えっ!? なにを言って――」
「俺と結婚しよう。好きなだけ子供を作ってやる」

 彼女の性格では、冗談だ、と取り合わないかもしれない。俺はもう一度、率直に言いきった。

「私……なんて言ったらいいのか……」
「俺と結婚すると言えばいいんだ」

 シミひとつない顔を歪(ゆが)ませる困惑の表情にも見とれる。

 俺は今まで、汐里の透明感のある美しさに気づかなかったんだ。

 いつの間にか彼女は、清艶で大人の女性になっていた。俺のモヤモヤの原因が次第に紐解かれていく。



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