エリート御曹司が花嫁にご指名です
 シャワーを浴びて、ワンピースを身につけ、メイクまで施したのに、桜宮専務に愛された身体はしゃんとしない。

 鏡の中の私は瞳が潤み、頬はピンク色に染まり、いつもの私ではあり得ない熱に浮かされたような顔をしている。

 どうにかして、いつもの自分を取り戻さないと。医者のお父さんの目には、娘が風邪をひいたと映るか、もしくは……。

 私はその先を想像して、乱暴に頭を左右に振った。

「なにをしている?」

 その声に我に返り、視線を横にずらすと、桜宮専務のドレッサーの鏡に映る視線とぶつかった。

「な、なにも……桜宮専務、今日、両親に会うのはやめませんか?」
「どういうことだ?」

 もうっ……。

「汐里?」

 鏡の向こうの桜宮専務が腕を組み、ジッと見つめる。

「わ、私の顔がおかしいからです」
「おかしい? なにを言っている?」
「こんなことになって、顔がいつもと違っているというか、医者の父の目にどんなふうに映るか考えたら……私と桜宮専務が……」
「俺たちは高校生じゃない。大人の男と女だ。しかも結婚の承諾をもらいに行くんだから、別にいいだろう? それから、これからは俺の名前を呼ばなければペナルティを課すことにしよう」
「ペナルティ!?」

 ギョッとなって、後ろを振り返ると、腕を掴まれて立たせられる。

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