エリート御曹司が花嫁にご指名です
「そう。さっきも優成と呼ぶように言ったのに。ペナルティは……そうだな。汐里からキスをしてもらおうか。それも濃厚な」

 桜宮専務は口角を上げ、ニヤリと笑う。

「ほら、行くぞ」

 私の手を握り、ドレッサーの上に置いていたハンドバッグを彼は片手で持った。そして私たちはリビングを通り、ドアへ向かった。


 優成さんは車を走らせ、我が家の家の前でエンジンを切ったのは、ちょうど三十分後だった。

 自宅へ向かう車中、私はずっとこれでいいのか考えていた。さっきは優成さんの愛がなくても、ずっと一緒にいたいと思っていたのに、やはりよくない思いに駆られていたのだ。

「桜宮専務……」

 シートベルトを外した優成さんへ呼びかける声は、真剣な声色だ。

 私は大きく深呼吸をして、彼の顔を見つめた。

「改まった声で、どうした?」
「……本当に結婚していいのですか? よく考えてください。衝動的なものなのかもしれません」
「なにを言っているんだ? 汐里は子供が欲しいんだろう? 俺は喜んで協力する。それとも、あの黒ぶち眼鏡の男のほうがいいのか?」

 どちらがいいかなんて、わかっているくせに……。

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