エリート御曹司が花嫁にご指名です
 和気あいあいとした夕食の後、優成さんは私を庭へ連れ出した。

 夏の夜特有の蒸し蒸しとした熱気が身体にまとわりつくが、エアコンの効いた室内から出てくると気持ちがいい。

「親父たち、いつになく上機嫌だったな」

 ソーラーライトでライトアップされた庭は、閑静な高級住宅地の静けさで、ふたりきりになった途端に暴れ始める心臓の音が、優成さんに聞こえるのではないかと心配になる。

 どっしりとした鋳物のガーデンテーブルの椅子を引かれる。

「座って」

 庭を少し歩くものと思っていた私は、困惑気味に椅子に腰を下ろした。

 優成さんは「ここで待ってて」と言って、家の中へ入っていく。そして私がぼんやりする暇もなく、戻ってきた。

「汐里、エンゲージリングをはめて」

 斜め横の椅子に座り、四角い小さな箱を開けて、エンゲージリングを取り出した。

 箱にハイブランドのロゴが入っているのを目にして、エンゲージリングよりもそれに一驚して、目を見開く。

「優成さん……」
「どうした? 左手を出してくれないか?」
 
 彼の左手が私のほうへと差し出される。

< 175 / 268 >

この作品をシェア

pagetop