エリート御曹司が花嫁にご指名です
「親父だな。まったく、朝陽のときといい、新しい家族が増えると親父は先走るきらいがある。だから明日からエンゲージリングをはめて出社するんだ」
「……わかりました」

 ずっと握られている手が熱を帯びていくみたいで、朝から当惑している。

「あの、手を……」
「手を握っただけなのに、顔が赤いぞ」

 優成さんは不敵な笑みを浮かべて、私を戸惑わせる。

「慣れていないんです」

 ドキドキと高鳴る心臓を気にしないようにしてそう言うと、彼の手から自分の手を引き抜いた。

「三十分後に南場を呼んでいる」
「南場秘書室長を……ですか?」

 なぜ呼んだのかわからなくて、首を微かに傾げる私だ。

「妊娠したら、仕事を辞めなくてはならなくなるかもしれない。それまでに汐里の下で実務を学び、代わりになる秘書を育てなくてはな。南場には秘書課の人選をしてもらうつもりだ」
「すぐに妊娠するかわかりません」

 自分から退職願を出したのに、優成さんの言葉に、私は複雑な気持ちに襲われた。

「赤ん坊がすぐに欲しいのだから、妊娠に備えて引き継ぎの準備をしたほうがいいだろう」
「そうですね」

 わかってはいるものの、物悲しい気持ちで、『ぜひそうしましょう』とは口にできない。

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