エリート御曹司が花嫁にご指名です
 一抹の不安に襲われ、言葉を失う私に、優成さんは椅子を離れて目の前に立った。

「どうした?」

 顎に手がかかり、上を向かされ、私の考えを読み取ろうとする瞳と視線がぶつかった。
「いいえ。宮本さんはサポート役では群を抜いてしっかりしているので、期待に応えてくれると思います」

 南場秘書室長もそう思ったから、推薦をしたのだろう。

「よかった。今日は機嫌が悪いと思っていたんだが?」

 顎に置かれた手はまだあって、私はプルプルと頭を左右に振った。

「そんなことはないです。では仕事に戻ります」

 私が優成さんの手から離れようと後退した刹那、彼のほうにグイッと引き寄せられた。

 反対の手が私のウエストに回っている。

「桜宮専務、今は就業中です」

 きっぱり口にする私に、優成さんは「クッ、クッ」と笑い、そしてギュッと腕の中に閉じ込めた。

「ちょ、離してくださいっ」
「秘書に徹している汐里はつまらない」
「事実、そうじゃないですか。ここは会社です。仕事を――んっ」

 話している途中で、唐突に唇が塞がれた。

< 184 / 268 >

この作品をシェア

pagetop