エリート御曹司が花嫁にご指名です
 驚きすぎて、目を閉じるどころか、パチパチと瞬かせる。

 さすがに会社だということは優成さんも気にしているのか、唇に軽くキスした後、彼は私から離れた。

「すぐに触れたくなるのは困りものだな」と、ひとりごとのようにぼそっと言って、席に戻っていく。

 ポカンと優成さんを目で追う私に、椅子に座った彼は「仕事に戻って」と、サラッと指示をする。

 勝手にキスしたくせに……。

 振り回されてしまった私はつんと澄まして、冷静な声を出そうと努める。

「失礼いたしました」

 私は自分勝手な優成さんに腹を立てて、専務室を後にしようと背を向けた。

「あ、汐里」

 再び声をかけられ、ドアノブから手を離して振り返る。

「なんでしょうか?」
「週末に予定は?」

 優成さんは執務デスクに両肘を置き、長い指を組んで私に尋ねる。

「特には……」
「じゃあ、一泊二日で出かける用意をしておいて。そうだな。水着の準備も。なければ向こうで買えばいいが」

 優成さんと一泊二日の旅行……。

 思いがけない誘いに、胸の内のモヤモヤもどこかへ消え去っていく。
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