エリート御曹司が花嫁にご指名です
 着席し、お義父さまが「このたびは――」と切り出し、結納が始められた。

 結納の品は前もって床の間に用意されており、両家で取り交わされる。

 その間、私は神経を張りつめさせながら、見守っていた。

 この儀式を通し、どこか危うい関係だと感じていた私は、優成さんと結婚するのだと安堵感が生まれた。


 その後、和やかなムードでお祝いの膳が進んでいった。

 仲のいい両親たちは話が弾み、楽しそうだった。

 結婚式の日取りも早いほうがいいと、両家の意見で来年の一月を目安に、式場を探すことになった。

 デザートを食べていると、対面に座る優成さんが腕時計に視線を落としたのが目に入った。

 それから三十分後、お開きになった。時刻は十五時を回ったところ。

「優成、汐里さんと出かけるのか?」

 父親に尋ねられた優成さんは、軽く首を左右に振って口を開く。

「残念ながら、人事の件で人と会わなくてはならないんです」
「こんなときに仕事かね」

 私も初耳だった。金曜日には、そんなスケジュールは入っていなかったはずで……。

 宮本さんがミスしたの?

「汐里、すまない」
「スケジュールには……」

 思わずそう言ってしまうと――。

「急に入ったんだ」
「そうでしたか。わかりました。お疲れさまです」

 この後に、ふたりの時間が持てるかと思っていたが、そうならずにがっかりしている私だった。

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