エリート御曹司が花嫁にご指名です
「一条さん、愛されている余裕ですね。桜宮専務とご結婚、本当に羨ましいです」

 宮本さんはニコッと笑う。

 愛されているわけではない。

 しくしくと静かな胸の痛みに、思わず手を置きたくなったが、私は微笑を彼女に向けた。


 あと十分で昼休みが終わる頃、レストランを出て宮本さんと戻りながら、私は口数が少ない。

 どうしても西尾さんが気になってしまっているのだ。

「――それで、渋江さんが……一条さん、一条さん?」
 
 ハッと我に返った目の前に、宮本さんが覗き込んでいた。

「あ……ごめんなさい。えっと……」
「いいんです。具合が悪かったりしますか?」

 急いで謝る私に、宮本さんが心配そうな瞳を向ける。

「ううん。ぼんやりしていたみたいで。ごめんなさいね」

 数メートル先は、社屋のガラス扉の出入口だった。

 シャンとしないと! つい優成さんのことを考えてしまう。今は仕事に集中しなければ。ボケボケしていられないわ。

 私は口を引き結び、自分に活を入れた。

 警備員の横を通り、ロビーへ入り、ゲートへと足を運ぶ最中に、宮本さんが「あ、桜宮専務が」と声を漏らす。

 彼女の視線を追っていくと、七メートルほど先でエレベーターを待つ優成さんがいた。

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