エリート御曹司が花嫁にご指名です
 昼食後、桜宮専務が直々に依頼した、機内ミールの各食品会社からの見積もりや写真が上がってきたものをまとめていると、外はすっかり陽が落ちて暗くなっていた。

 秘書室にいるのは私だけだ。

 いつも私たちよりも遅く残っている南場秘書室長は、急病の三和子さんの代理で、社長に同行している。

 秘書たちも先ほど、「お先に失礼します」と言って帰っていった。

 腕時計に目線を落とすと、退勤時刻から二時間が経っていた。首が疲れて、左肩を右手で揉む。

「帰らなきゃ。まだ月曜日だし」

 ひとりごちて椅子から立ち上がったとき、秘書室のドアが開いた。

「やはり、まだ帰っていなかったのか。スマホに電話したんだが」

 優成さんだった。今では定位置になった端のフリーデスクにいる私に、大股で近づいてくる。

「お疲れさまです。気づかなくてすみません。なにか急な書類作成でも?」
「いや。仕事じゃない。夕食を食べよう」
「週の初めなので、ご自宅に帰られたほうが――」
「汐里?」

 途中で遮られ、優成さんの指が私の顎にかかり、上を向かされる。

「もう就業後だ。口調が硬すぎるぞ」

 私を追いつめるかのように、黒い瞳に見つめられ、一歩足が後退する。すると、背中に壁が当たった。

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