エリート御曹司が花嫁にご指名です
「どうした? 俺から逃げてる?」
「そ、そういうわけでは……ここは秘書室ですし……すぐに帰り支度をします」
 
 昼間の件があって、私の態度は自分でもわかるほどにぎこちない。
 
 優成さんから離れるために、横にずれようとした私の顔の横に、スッと手が壁に伸ばされた。

「桜宮専務……」

 彼の口元がやんわり緩む。

「ペナルティだな」

 私が、『桜宮専務』と呼んだせいだ。

「えっ? ここは会社です。ペナルティにはならないかと」
「じゃあ俺からキスをする」

 きっぱり言いきる優成さんに驚いている間に、私の唇が塞がれた。

「んんっ……」

 強めに押しつけられる唇は、ほんの少しの隙間を許さずに舌を忍ばせてくる。舌が絡み合い、身体が熱くなっていく。

 もっと……と、自分から優成さんの舌を欲したとき――。

 優成さんが突然キスを止めて、ゆっくり振り返る。

 私はどうして急に止めたのかわからなくて、困惑する。すると――。

「す、すみませんっ!」

 慌てる女性の声に、私はビクッと肩を跳ねさせて、優成さんの横からそちらを見てしまった。

 床に散らばった書類を拾っているのは、宮本さんだった。

 口元に手をやり動転している私の頬に、優成さんは軽くキスをして、宮本さんのほうへ近づく。

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