エリート御曹司が花嫁にご指名です
 彼女は顔を上げられないといった様子で、書類は拾ったそばから、はらりと床に落ちる。
 
 優成さんが彼女の前でしゃがみ、その書類を拾う。

「驚かせてすまなかった。汐里の顔を見たら我慢できなくてね」
「い、いいえ……申し訳ありませんでした」

 宮本さんは顔を上げられずに、無造作に集めた書類を抱えて身体を起こした。

 もう一度ペコリと頭を下げた宮本さんは、近くのフリーデスクの上に書類を置いた。

「書類を直すのは明日でいい。汐里、用意をして」

 宮本さんに声をかけた優成さんは、壁に張りついたまま動けないでいる私に声をかける。

 その言葉で、やっと金縛りのようだった身体が動き、一番下の引き出しに入れたバッグを持つ。

 その間、優成さんは飄々とした雰囲気で立っていた。

「宮本さん、驚かせてごめんなさい。お先に」

 ばつの悪いところを見てしまったせいか、まだ俯いている宮本さんに帰りがけに謝り、優成さんと一緒に秘書室を出た。

 エレベーターを呼び、待つ間、私も気まずかった。

「どうしてそんな顔をしている?」
「……どうしてそんな顔をしているって? あんなところでキスするべきじゃありませんでした。宮本さん、ひどく困惑していたじゃないですか」

 先ほどのことは、ほんのわずかでさえも気にしていないような優成さんを睨みつける。

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