エリート御曹司が花嫁にご指名です
 電車に乗って、ドア付近に立った私は自己嫌悪に陥っていた。

 日中のこの電車には、旅行帰りでスーツケースを持った人や、サラリーマンが少しいるだけで空いている。
 
 私はいったいなにをしているの……? 優成さんと西尾さんがキスしたんだったら、彼に確かめればいいのに。彼女の姿をひと目見たくて、出かけちゃうなんて……。
 
 ふう~、とため息をつく。

「汐里さん?」

 可愛らしい声が聞こえて、ハッと声のほうを向くと、砂羽さんが立っていた。優成さんの弟・朝陽さんの奥さんだ。彼女はまだグランドスタッフとしてAANに勤務している。

「砂羽さん!」

 偶然の出会いに驚く私たちだ。

 砂羽さんが笑顔で私の横に来て、口を開く。

「お仕事中ですよね?」
「はい。訓練部に書類を。砂羽さんは……?」

 彼女はカシュクール風のベージュのワンピースを着ていた。

「友人を見送ってきたんです。あ、ご婚約おめでとうございます。お会いしたときから、お似合いのおふたりだなって思っていたんです。朝陽もとても喜んでいました」

 屈託のない笑みを向けられ、戸惑いながらも私はやんわりと口元を緩ませた。

「ありがとうございます」
「近々、うちにおふたりで遊びに来てください。連絡しますね。料理は上手ではないけれど、頑張りますから」

 全身から幸せがにじみ出ている砂羽さんに、私もつられて頷く。

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