エリート御曹司が花嫁にご指名です
「はい。ぜひ」
「あ、もう着いてしまいました。せっかく会えたのに残念です」

 彼らの住まいがあるタワーマンションは、わが社からひと駅のところにある。

「では、また」

 私も明るい彼女とまだまだ話をしていたかったが、砂羽さんが車両から降りていくのを、小さく手を振って見送った。

 ホームに降りた砂羽さんもその場に立ち、私に手を振っていた。

 朝陽さんと砂羽さんは、本当にお似合いのふたりだわ。

 私も出席した彼らの結婚式を思い出していると、社屋のある最寄り駅に到着した。



「ただ今戻りました」

 秘書室に入り、デスクで仕事中の南場秘書室長に声をかける。

「お疲れさまでした。桜宮専務が、戻られたら来てほしいと言っていました」
「わかりました。ありがとうございます」

 最近は、宮本さんを通して呼ばれることもあったけれど、優成さん直々の連絡はなかった。
 書類に不備があったのかしら……。

 出かけるまで使っていたデスクの引き出しにバッグをしまい、専務室へ向かう。

 ノックをして、中からの返事を待ってドアを開ける。ちょうど宮本さんが私に頭を下げて出ていく。

「お呼びだと伺いました」

 執務デスクで書類になにかを書き込んでいた優成さんは、手を止めて顔を上げる。その顔は不機嫌そうに歪んでいた。

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