エリート御曹司が花嫁にご指名です
 汐里の望みは赤ん坊を産むことだ。妊娠すれば当然、会社を辞める。

 秘書不足の今、宮本がしっかり一人前の秘書になることだけを望むしかない。

 俺に期待をするなとの意味合いで、宮本さんが秘書室に入ることを見越して、汐里にキスをした。

 予想通り、宮本さんは俺が汐里に濃厚な口づけをしているところを目にした。

 動揺はしていたようだが、これで略奪愛を狙う気持ちよりも、仕事に集中してくれればいい。


 俺と汐里の結婚話が進む中、以前から訓練部の部長より、指導教官を入れてほしいと頼まれており、思い当たる人物を俺はヘッドハンティングした。

 以前はわが社のCAだったが、シンガポールの航空会社で働いていた西尾朝(あさ)香(か)。彼女は約一年付き合っていた元カノだ。

『あなたは別の女性を求めているのよ』と言って、俺から去った女。

 CAとして完璧な彼女を、俺は教官にスカウトしたが、朝香はいつの間にか子供を産み、シングルマザーになっていた。

 子供の父親はシンガポールで知り合い、価値観の違いから別れたと、彼女は話した。

 だから子供のために待遇がよくなれば、どこででも仕事をすると。

 五年ぶりに会う朝香は年月を重ね、上品な女性という比喩が当てはまる女になっていた。だからといって、焼け木杭に火がつく気持ちはまったく起こらなかった。

 俺が愛しているのは汐里だ。
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