エリート御曹司が花嫁にご指名です

十、愛する人と離れて

 優成さんの電話が鳴りやんだ後、私は飛行機のチケットを手配した。

 明日の朝発つフライトを予約し、一週間用のキャリーケースに思い当たる服や常に使っているものをポンポン詰め込んでいく。
 
 この際、優成さんから離れてよく考えたかった。
 
 ほとんど寝ておらず、頭がぼうっとするけど、私は立ち止まらなかった。ただの足踏みさえもしなかった。
 
 二ツ木乗馬クラブへ行く約束も反故にするのは心苦しかった。
 
 気持ちの整理をつけて、戻ってきたら行こう。
 
 そう考えて、珠理奈には用事が出来ていけなくなったとキャンセルの謝りのメールをした。


 翌朝タクシーで羽田国際空港へ向かい、旅客機に乗り込んだ。
 
なにもかも放り出す、真面目で保守的な私らしからぬ行動だった。家族には心配をかけないように、結婚前に友人と旅行が急遽決まったからと話した。
 
 壮兄にも本当のことは口に出せなかった。
 
 出かける私に玄関で、『優成さんは、なんて言ってた?』と聞く壮兄に、私は『楽しんできてって』と嘘をついたのだ。
 
 飛行機の中でも、一睡もできずに乗り継ぎをして、到着したのはアメリカの北西部に位置するシアトルだった。

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