エリート御曹司が花嫁にご指名です
 あのときは繁忙期で、結婚式に出席した以外は飛行機やホテルの部屋で優成さんと仕事をして観光ができずじまいだったことを思い出した。

 優成さん……。

 彼の姿が脳裏に映し出され、胸がギュッと掴まれたみたいに痛くなった。

 理由も話さずに逃げ出した私に憤っているよね……。

 まだどうしたらいいのかわからない。優成さんに子供がいるのだから、あの子から父親を取ってはいけない。

 でも、私は優成さんを愛しているから、本当は彼と結婚したいし、離れたくないと思っている。

 心の迷いから、お腹が空いているはずなのに、朝食はほとんど手をつけられなかった。

 気分転換に街に出よう。身体を動かせばお腹が空くかもしれない。



 優成さんとのことは結論を急がないように、その日はなにも考えないようにして、シアトル美術館や公園、マーケットなどを歩き回った。

 ホテルに戻ると、さすがに歩きすぎて疲れを覚えており、ルームサービスの夕食にした。オーダーしたクラムチャウダーのスープが身体を温めてくれる。

 だけど、シーフードのサラダとパンは、綺麗に皿の上で手つかずだ。まだ食欲は戻ってくれない。

 食べるのを諦めた私は、バスタブにゆっくり浸かり、眠りに就いた。

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