エリート御曹司が花嫁にご指名です
 電話が鳴っている……。

「うう……ん……」

 寝返りを打ったところで、ここがどこなのかを一瞬考えてからハッとして、身体を起こした。

 ベッドサイドの電話の受話器を取った途端、英語で話す女性の声が聞こえてきた。

《グッドモーニング、ミス・イチジョウ?》

「イエス……」

 英語の問いかけに、まだ働かない頭で応じて、すぐに――。

《ミセス・シモンズがロビーにいらしています》

 えっ!?

 驚いて固まってしまった私の耳に華さんの声が聞こえてきた。

《受話器を貸して》

 華さんの流暢な英語のきっぱりした物言いで、スタッフに指示する声だ。

『汐里、部屋へ行ったほうがいい? それともここに来る?』

 英語から日本語に切り替えた華さんの勢いに押されて、「部屋で……」と告げる。部屋のほうが落ち着いて話ができるだろう。

 電話を切った私は、急いで顔を洗いに行く。部屋着から昨日のセーターとデニムに着替えたところで、ドアがノックされた。

 どうしてここに来ているのが知られたのかさえ、考える暇もなくて。

 ドアを開けた途端に、華さんが勢いよく入ってきて、「汐里!」と抱き着かれた。

「華……さん……」

 ギュッと抱きしめられて十秒ほどが経っただろうか、華さんは私から離れた。

 
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