エリート御曹司が花嫁にご指名です
 私がAANに入社を決めたのは、私立女子大学に在学中、就職活動をするにあたり、桜宮家の主治医となっている父親に勧められたから。

 商社や銀行なども受けたけれど、桜宮家の面々とも顔見知りであったから、居心地がよさそうに思えた。しかも、AANは国内最大手の企業で、お給料も他より高かった。

 そして、桜宮家の長男である専務の秘書となって六年目になる。
 
 恋人同士という噂のせいもあり、私は二十七歳のこの年でも、付き合った男性がいない。

「あ、来たわ」

 三和子さんが重役階専用のエレベーターに乗り込み、私も後に続く。

 十五人乗りの箱に乗り込んだのは私たちだけ。私は二十五階のフロアのボタンを押す。

 わが社は品川区の湾岸地域に本社ビルを構え、二十五階の最上階が役員・重役専用フロアとなっている。

「高嶺の花に声をかけられただけでも、褒めてあげるわ」
 
 フフッと笑みを漏らす三和子さんは、斜めに流している前髪を指先でサラッと払った。
 
 私より四歳年上の三和子さんは、二年前に結婚をしたけれど、去年離婚している。一重の切れ長の目の和風美人。結婚は懲り懲りで、独身を貫くと聞いている。

「高嶺の花の使い方を間違っています。私ではなく、三和子さんじゃないですか」
「あら、違うわよ。誰も付き合うことが叶わない秘書課の高嶺の花は、汐里さんよ」

 反論すれば、堂々巡りになる。次の言葉に困っていると、二十五階にエレベーターが到着した。
 
 三和子さんが降りて、私も後に続いた。
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