エリート御曹司が花嫁にご指名です
 秘書たちは重役の執務室にもデスクはあるが、エレベーターを降りた正面にある秘書室でも仕事ができるように、フリーデスクが用意されている。

 私たちは秘書室へ入る前に、エレベーター横にあるレストルームでメイクを直す。

「ほら、鏡を見て」

 隣でメイクを直していた三和子さんと、鏡の中で目と目が合う。

「くっきり二重の猫のような綺麗な目に、鼻筋の通った美の見本のような形の鼻でしょ。唇はランチを食べてすっかりリップが落ちても、濃いピンク色。まったく、女の私でさえもキスしたいくらいよ」

 三和子さんに手放しで褒められて、困惑する私だ。そんな私を尻目に三和子さんは続ける。

「それに、整った輪郭に、艶やかなブラウンの髪の毛」

 胸の位置まである髪は、就業中は邪魔になるため、後ろでひとつにバレッタで留めている。

「この完璧な顔は、私では太刀打ちできないわよ」

 にっこり笑う三和子さんに、私は首を左右に振る。

「本当に、今まで恋人ができないことが信じられないもの」

 そう。私はこの年になるまで、男性と縁がなかった。家が病院を経営しており、裕福なため、男女共学の幼稚舎以降、小学校から大学まで女子ばかりの私立の学校へ通っていた。

 優しい兄がふたりいて、男性が苦手にならずに済んだのは幸いで、こうして仕事ができている。

< 4 / 268 >

この作品をシェア

pagetop