エリート御曹司が花嫁にご指名です
「壮二が、手の具合を尋ねる電話のときに、雑談で今日が君の誕生日だと言っていたんだ」

 それでだったのね……。

 私の淡い期待は、シャンパングラスの中身のように、しゅわしゅわと消えていく。

 桜宮専務の手の傷はよくなっていた。出社後に三日間ほど、私が消毒をして包帯を交換していたが、現在はテープだけになっていた。

「いくつになったんだ?」
「二十八です。兄が余計なことを話したせいで、お食事を設定してくださり、ありがとうございます」

 壮兄から聞かなければ、今はなかっただろうと思うと、胸が痛みを覚える。

「二十八か。君が小さな頃から知っているから、そんなに経ったとは思えないな」
「その言い方はお年寄りみたいですね。私と桜宮専務は、それほど離れていないじゃないですか」

 容姿端麗な桜宮専務は、三十五歳の男盛りで、今もテーブルに着いている女性客の視線を私はときどき感じていた。

 桜宮専務はフッと鼻で笑い、前菜のカルパッチョを綺麗なナイフとフォーク遣いで口へ運ぶ。

 桜宮専務にとって、私は職務に忠実な秘書で、プライベートは知人の娘。その立ち位置でしかないのだろう。

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