エリート御曹司が花嫁にご指名です
 十八時を回り、これから桜宮専務は旅行代理店の社長と会食に出かける。今日の会食に私は同行しない。

 上司が執務デスクの上を片づけているのを見て、私はすっくと立ち上がった。手に退職願と書かれた白い封筒を持って。

「桜宮専務」

 執務デスクの前に立った私に、手を止め、桜宮専務は顔を動かした。

「手紙か? 急ぎでなければ、そこに置いておいてくれ」

 顔を上に向けるときに、私が持っている封筒を見たのだろう。

 桜宮専務は椅子から腰を上げて、斜め後ろのポールにかけられたサマースーツの上着を手にした。

「いえ。今見てほしいのですが」

 サマースーツの上着を羽織りながら、桜宮専務は再び私へと視線を向ける。

「わかった」

 桜宮専務は手を私のほうへ伸ばす。

 私の暴れる心臓はこれ以上ないほどで、手も微かに震えている。私は大きく息を吸って、両手を組むようにして持っていた白い封筒を差し出した。

 しっかり表面を向けて。

 桜宮専務の伸ばされた手が止まる。封筒はまだ彼の手に渡っていない。

「退職願?」

 鋭い視線に私はひるみそうになった。

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