エリート御曹司が花嫁にご指名です
 パソコンの電源をONにして、立ち上がるのを待つ間、窓へと顔を向ける。一面の大きな窓から見えるのは東京湾。時折、旅客機が大空を飛んでいるのも見える。

 七月下旬。今年の梅雨も二日前に明け、窓の向こうではぷかぷか浮かぶ小さな雲や、静かな水面がキラキラ輝く東京湾の海が、真夏の到来を教えてくれているようだ。

 私と桜宮専務が恋人同士だと噂されているのは知っていたけれど、事実無根。

 桜宮家の主治医である父親との縁で、幼い頃から何度か桜宮専務と顔を合わせていた。

 だけど、七歳年が離れているため、桜宮専務はほとんど見かけることがなく、遊んでもらったのは私より五歳上の長女、(はな)さんだ。次男の朝陽(あさひ)さんは中学生のときから、パイロットになる夢を叶えるために、アメリカへ留学してしまっていたから。

 朝陽さんは私の兄、壮二の親友で、そのこともあって彼が帰国後、ときどき三人で食事に行ったりしていた。

 桜宮専務もイギリスの有名大学へ留学し、卒業後、世界の主要都市にあるAANの支社へ赴任し、二十八歳で本社へ異動になった際、専務取締役になった。

 私が入社したのはその一年後で、当時三ヵ月後に退職予定の先輩秘書に仕事を教え込まれ、後任の専務秘書となったのだ。

< 6 / 268 >

この作品をシェア

pagetop