エリート御曹司が花嫁にご指名です
「欲しい気持ちはわかるわ」
「このまま桜宮専務の秘書でいたら、一生結婚できそうにないので」

 三和子さんは私の話を聞きながら、ジョッキを口に運んだが、空になっていることに気づき、店員を呼んでお代わりを頼む。

「そっか……。でも、桜宮専務は汐里さんを手放すかしら……あ、その理由を話したの?」

 私はクスッと笑った。

「そんなこと言えないですよ」

 理由を告げたら、桜宮専務の反応はどうなのだろう……。

「海外へ行って自分を見つめ直したい、と。そうしたら、三ヵ月間の休暇をあげるから、戻ってくるようにと桜宮専務が」

「あらっ! 三ヵ月間も休職させてくれるの!?」
「最初は一ヵ月、二ヵ月。返事ができなかったら三ヵ月と。それだけ時間があれば、配属された秘書も慣れますよね」

 秘書課にいる秘書たちの顔を思い浮かべる。入社三年目の宮本(みやもと)さんがいいのではないかと思っている。

 専任秘書ではないし、南場秘書室長も目にかけている様子。

「ううん……誰も汐里さんの代わりにはなれないわ。桜宮専務の秘書になったら、浮ついちゃって仕事どころじゃなくなるわよ、きっと」
「そうでしょうか……? 宮本さんが適任ではないかと」

 運ばれてきたジョッキを三和子さんは口にしてから、ブンブンと首を左右に振る。

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