エリート御曹司が花嫁にご指名です
「汐里。いつものように、ランチミーティングの内容は後で南場からもらうように。ファイリングを頼む」
「かしこまりました。ただ今コーヒーをお持ちします」
私は頭を下げ、執務室を出てカフェスペースへ向かった。
桜宮専務は入社した当時から、ふたりきりのとき、私を『汐里』と呼ぶ。他の重役や秘書がいるときは『一条くん』と。
私を小さい頃から知っているせいで、下の名前を呼ぶのだと思っている。
そう考えても、桜宮専務の形のいい薄めの唇から、滑らかな低音で呼ばれると、いつも心臓が暴れだす。気づかれないようにするのが大変だった。
秘書になって最初の頃は、以前会ったことのある素敵なお兄さんという気持ちだった。その気持ちはだんだんと好きに変わっていった。
秘書という仕事は、桜宮専務のプライベートなことまで耳に入ってくる。三十五歳の健康な男性に、今まで恋人がいなかったわけではない。
でも結婚にまでは至らず、どの女性とも長続きしないようだった。現在、私が知る限りではフリーと認識している。
就業後、デートに出かける桜宮専務を見るたびに、胸が痛みを覚えていたものだ。
以前、社屋のロビーで桜宮専務と彼女が待ち合わせのところを目にした記憶をよみがえらせてしまった。
「かしこまりました。ただ今コーヒーをお持ちします」
私は頭を下げ、執務室を出てカフェスペースへ向かった。
桜宮専務は入社した当時から、ふたりきりのとき、私を『汐里』と呼ぶ。他の重役や秘書がいるときは『一条くん』と。
私を小さい頃から知っているせいで、下の名前を呼ぶのだと思っている。
そう考えても、桜宮専務の形のいい薄めの唇から、滑らかな低音で呼ばれると、いつも心臓が暴れだす。気づかれないようにするのが大変だった。
秘書になって最初の頃は、以前会ったことのある素敵なお兄さんという気持ちだった。その気持ちはだんだんと好きに変わっていった。
秘書という仕事は、桜宮専務のプライベートなことまで耳に入ってくる。三十五歳の健康な男性に、今まで恋人がいなかったわけではない。
でも結婚にまでは至らず、どの女性とも長続きしないようだった。現在、私が知る限りではフリーと認識している。
就業後、デートに出かける桜宮専務を見るたびに、胸が痛みを覚えていたものだ。
以前、社屋のロビーで桜宮専務と彼女が待ち合わせのところを目にした記憶をよみがえらせてしまった。