エリート御曹司が花嫁にご指名です

三、お見合いはあっけなく

 夏季休暇の前日の金曜。

 今日は本社重役以上が参加する食事会が十八時からある。毎年あるこの食事会は秘書たちの慰労も兼ねてなので、私たちも出席する。
 
 この日ばかりは秘書たちも、無礼講とまではいかないが、高級ホテルの美味しい料理を食べて歓談する。
 
 今日の秘書課は華やか。
 
 秘書室に入った途端、カラフルなワンピースやスーツ姿の秘書ばかりだ。秘書課で唯一の男性である南場秘書室長は、いつもと変わらないグレーのスーツ。
 
 ペパーミントグリーンのパンツスーツを見事に着こなした三和子さんが、近づいてきた。

「おはよう、汐里さん。黒のシックなワンピースね。レースが綺麗。よく似合っているわ」
「おはようございます。三和子さんは綺麗な色で、爽やかですね」

 今日の私は三和子さんの言葉の通り、全身黒。華やかな色味の服を着る気持ちに、なんだかなれなかった。

 それでもレースが生地に施されているので、食事会に出席してもおかしくないだろう。今は極力、目立ちたくなかった。

「カラフルの中に黒一点、目立たないように着てきたのだと思うけど、かえって目を引くわよ」
「ここだからですよ。重役たちがいれば目立たなくなりますから」
 
 三和子さんはにっこり笑い、「それは食事会に行ってのお楽しみね。さてと、仕事、仕事!」と言って私から離れていく。

< 80 / 268 >

この作品をシェア

pagetop