エリート御曹司が花嫁にご指名です
 こちらのテーブルにいるのは、秘書課では、あとは南場秘書室長だけ。

 彼は対面の出入口に近い端にいて、フレンチレストランのスタッフたちと段取りして、目を配っていた。
 
 三和子さんと目が合い、彼女もやれやれといった様子で小さく肩をすくめてみせる。彼女も向こうのテーブルへ行きたい様子。
 
 秘書たちの席へと視線を移動させてみれば、まだふたりは座れる余裕はあった。

「秘書課の華がふたりいると、美々しいですな」

 六十代の理事のひとりが、満足げに顔をほころばせる。

 大げさな褒め言葉に、私は居心地が悪い。聞こえないふりで、端に座る南場秘書室長へ顔を覗かせる。

「どうした? 落ち着かないか?」

 隣の席に座る桜宮専務が訳知り顔だ。

「当たり前です。どうして向こうの席じゃないんですか」

 小声で異議を唱える私に、桜宮専務は意地悪たっぷりに笑みを浮かべる。

「華が必要だという意見を尊重したんだ」
「お言葉ですが、私たちはコンパニオンではありません」

 周りに聞こえないくらいの声なので、自然と私たちは顔が近くなっていた。

 そんな私たちに、上機嫌な声が降ってきた。

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