エリート御曹司が花嫁にご指名です
対面に座る常務と会話が途切れたところで、私は桜宮専務のほうへ顔を向けた。すると、視線に気づいた彼は、どうした?と言うように小さく首を傾ける。
「具合が悪いのでしょうか?」
「いや、どうして?」
「今日はお酒を召し上がらないので。もし必要なら運転代行業者を依頼しますが」
「頭を悩ませる秘書がいるからな。酒で楽しむどころじゃないんだ」
 
 サラッと嫌味を言われて、グッと押し黙りそうになる。
 
 それって、私のことよね?

「お酒を飲まない理由にはならないかと……」
「そんなに飲ませたいのか? 俺が潰れたらどうするんだ? 秘書として自宅へ送り届けてくれるのか? それとも部屋を取って介抱を?」

 へ、部屋を取って、か、介抱?

 この六年間、意味深な言葉を彼が口にしたことはなく、思わず目を剥いた。

「クッ。そんなに驚くなよ。大きな目がもっと大きくなっている」
「じょ、冗談はやめてください。もちろん代行を呼んで、ご自宅へ送らせていただきます」

 顔がかあーっと熱くなり、手元のシャンパンをゴクゴクと一気に飲み干す。

「お、おい」

 普段それほど飲まないのを知っている桜宮専務は、慌てた様子を見せる。それが私には嬉しい。

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