エリート御曹司が花嫁にご指名です
「大丈夫ですよ。これくらい」

 空になったグラスを目ざとく見ていたレストランスタッフが、すかさずなにを飲むかを聞きに来る。

 私は同じものを頼み、待たされずにグラスがシャンパンで満たされる。

「まあいい。俺が送っていくから、好きなだけ飲めよ」

 なんだろう。調子が狂ってくる。

 桜宮専務には数えきれないくらい送ってもらっている。彼の表情がいつもより柔らかく感じるのは、私が酔ってきている証拠なの……?

 桜宮専務は常務に話しかけられ、意識がそちらへ向いたことにホッと安堵して、いつの間にか目の前に置かれていた甘鯛のソテーを食べる。

「汐里さん、なんだかいい感じに見えるのは気のせいかしら?」

 甘鯛の皮をカリッとさせ、ふんわりしている身の触感を楽しんでいると、三和子さんの声に「えっ?」となる。

「な、なにを言っているんですか。気のせいです」
「そうかしら」

 三和子さんは赤ワインのグラスを手で小さく動かしながら、笑みを浮かべる。美女とワインが絵になりすぎて、女の私でさえも心臓をドキッとさせてしまう。

 結婚は懲り懲りなんて、もったいないな。

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