エリート御曹司が花嫁にご指名です
「汐里さん、お疲れさま。桜宮専務がああ言ってくださっているのだから、お言葉に甘えなさいな」と、三和子さんに背中を押される。

「では……お先に失礼します」

 ここですったもんだしているのもスマートではない。

 私は車寄せに停められた愛車に近づく桜宮専務の後を追った。

 ドアマンに助手席を開けられ、席に座ると、すぐに桜宮専務はエンジンをかけて車を発進させる。

「遠回りになるので、送らなくてもよかったんです。社長とご一緒に帰宅すれば――」
「親父は飲みに行ったよ」
「そうでしたか……」

 レストランでの桜宮専務の言動が思い出され、今になって鼓動が暴れ始める。

『そんなに飲ませたいのか? 俺が潰れたらどうするんだ? 秘書として自宅へ送り届けてくれるのか? それとも部屋を取って介抱を?』

「汐里」
「は、はいっ!」

 心臓がドキドキしているせいで、ふいに話しかけられた私はビクッと背筋を正して、上ずった返事をしてしまう。

 この高鳴りはシャンパンのせいよ。

 鼓動を静めるために、胸に手を置きたいところを我慢する。

「まだ答えは出ていないよな? 休暇なら好きなだけ取ればいい」

 退職願の件だ。

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