エリート御曹司が花嫁にご指名です
 桜宮専務はまっすぐ前を見ながら、私に静かに話しかけてくる。

 ピンと背筋を伸ばしたまま、答えに困る私だ。

 私の気持ちは変わっていないから。

「その件は……」

 歯切れの悪い私に、桜宮専務はこれ見よがしに大きなため息をつく。途端に居心地が悪くなって、早く着くことをそっと心の中で願う。

「頑ななのはどうしてだ? 自分を見つめ直しに海外へ行くにしても、帰国後、職があれば気持ちは楽じゃないのか?」
「三ヵ月では、なんとも……」

 そこで沈黙してしまい、当惑する私だった。


 会話がない時間が続き、耐えられなくなったとき、自宅前に車が停まった。

「ありがとうございました」

 膝の上に置いていたバッグの持ち手をギュッと握ったまま、助手席で頭を下げ、お礼を口にした。

「あれは、壮二じゃないか?」

 病院のほうから、壮兄がブラブラと歩いてくる。

「はい。兄です」

 壮兄も桜宮専務の車に気づき、足早になった。私が車外へ出ると、一緒に桜宮専務も運転席から出てきた。

「優成さん、お疲れさまです。しおりんを送ってくれてありがとうございます」
「壮二、病院から今帰りか?」
「ちょっと呼び出されて」

 ため息とともに苦笑いが出る壮兄は、思い出したようにポンと手を打つ。

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