俺と、甘いキスを。
有給休暇も三日目に入った。
あの散々泣いて帰った翌日、両親からは腫れ物に触るような扱いを受け、そして心配して兄に連絡をしてしまった。夜になって兄は家に帰ってきて私の顔をジロジロ見た後、夕食を食べて独り暮らしのアパートへ帰っていった。
「まあ、元気ならそれでいい」なんて偉そうなことを言っていたが、兄に話しても何も解決するものはないため、逆に放っておいて欲しいとさえ思っていた。
昨日と今日、私は久しぶりに両親の手伝いのために畑仕事をしている。とはいっても、私に出来ることは簡単なことばかりだ。
今日は菜の花を摘んでいる。私は花野菜の中で菜の花が一番好きだ。小さい頃から慣れ親しんできた野菜ということもあるが、柔らかい茎と葉、そして緑色の蕾がとても綺麗だ。少しほろ苦い味も私好みで、天ぷらは美味しいし、お肉と卵とじにしても最高のご飯のおかずになる。もちろん、胡麻和えも好きだ。
菜の花の黄色く可愛らしい花も花瓶に飾れば、部屋にいても春が来たのだと感じるのも楽しみの一つだ。
──今は心身ともに疲れた自分を癒そう。来週のお見合いに備えてリセットするべきなのだ。
脳裏に浮かぶ、右京蒼士との出来事を全て思い出にするように。
ただ、何も考えずに菜の花を摘む。来週からいつもの自分に戻って、いつもの仕事ができるように。
しかし、その願いも夜の電話の呼出音で、脆く崩れ落ちた。