俺と、甘いキスを。
縁側で、秘密の一週間(蒼士side)

目が覚めたとき、見知らぬ天井が視界に入った。その天井もまだぼんやりと見えるだけだが、明らかに自分の家でも研究室でもないことだけはわかった。
だんだん辺りが鮮明に見えるようになって、見覚えのない和室で布団に寝かされているんだと気づいた。

──ここは、どこだ?

部屋の造りは古い。閉められた障子から差し込んでくる明るさに、多分、今は昼間なのだろうと予測する。からし色の土壁、黒い柱、見事な松が描かれた襖、床の間に飾られた梅の絵の掛け軸。そして、畳の匂い。
どこか懐かしいと感じた。

久しぶりに、ぐっすり眠った気がする。
まだ頭がクラクラする感覚はあるが、記憶はハッキリしているので脳の影響はないと思った。といっても、その記憶も兄貴と電話している途中で切れてしまっているが。
その後、自分がどうやってここへ来たのか、ここはどこなのか、分からないことばかりだ。

「はぁ」と、大きく息を吐いて左手首を額に押し当てる。自分の着ているものが白衣でなくスウェットになっている。グレーの、大きなサイズのものだ。
「?」
腕に違和感を感じて袖をまくってみると、注射後に使われる小さな止血用パッドが、腕の真ん中に貼られていた。

──なんだ?注射か、点滴か。

自分に何を投与されたのか、眉間に力が入る。
とにかく、ここがどこだか確かめるために起き上がろうとした。


「あらあら、無理して起きない方がいいわよ」

揺れる頭を気にしながら、布団に肘をついて体を起こそうとしていると、頭上から女性の高めの声が聞こえてきた。
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